ビールゲームで部門をまたいだ連携力を高める研修の進め方と効果
ビールゲームは、小売・卸・メーカーに分かれて在庫を管理し、品切れを起こさずに供給を続けるシミュレーションです。部門ごとの正しい判断が全体を揺らす仕組みを解説します。

どの部署も正しく判断しているはずなのに、会社全体では在庫が余ったり足りなくなったりしていませんか?
営業は欠品を避けるために多めに発注します。製造は急な増産に備えて生産を積み増します。それぞれの立場では、どれも理にかなった判断です。ところが全体を通して見ると、過剰在庫と品切れが交互に押し寄せる状態になっている。誰のミスでもないのに、結果だけが悪くなります。
そこで活用されているのが、ビールゲームです。小売・卸・メーカーに分かれ、ビールを切らさずに流通させることを目指すシミュレーションです。この記事では、そのルールと研修での活用方法を解説します。
ビールゲームとは?
小売・卸・メーカーなどの役割に分かれ、注文と出荷を繰り返しながら在庫を管理していくシミュレーションゲームです。1960年代にマサチューセッツ工科大学で開発され、いまもサプライチェーンや組織論の研修で使われ続けています。




1チームは4つの階層で構成します。小売店、1次卸、2次卸、メーカー。消費者からの注文は小売店にだけ届き、小売店は不足分を1次卸へ発注します。1次卸は2次卸へ、2次卸はメーカーへ。注文は川上へ、商品は川下へと流れていきます。
ここに2つの制約が加わります。1つは、発注してから商品が届くまでに数週分の遅れがあること。もう1つは、各プレイヤーが見えるのは自分の在庫と、直前に受けた注文だけだということです。全体の需要がどうなっているかは、誰も知りません。
目標は、品切れも過剰在庫も起こさずに供給を続けることです。在庫を抱えれば保管費、切らせば欠品のペナルティが積み上がります。チーム全体のコストを最小にできたチームが勝ちです。
研修での活用方法

ビールゲームを研修に取り入れるときは、「ゲーム前・中・後」の3フェーズで設計すると効果が最大になります。
フェーズ1:ゲーム前(役割を配置し、制約を徹底する)
役割の配置は、ふだんの業務と逆にすると学びが増えます。営業担当をメーカー役に、製造担当を小売役に置くと、相手側の判断の背景が体で理解できます。管理職研修であれば、あえて全員に川上の役割を経験させる構成も有効です。
制約の徹底が、このゲームの生命線です。「階層をまたいだ会話は禁止」「やり取りは注文票の数字だけ」。この2点が守られないと、全員が相談して需要を共有してしまい、何も起きません。参加者には「現実でも、他部門の在庫状況はリアルタイムには見えません」と添えて納得してもらいましょう。
進行は20〜30週分を目安にします。1週あたり2〜3分かかるため、ゲーム本体で60分前後を見ておきましょう。消費者需要は、最初の数週を一定にしてから一度だけ増やす形が定番です。この変化がどう増幅されていくかが、このゲームの見せ場になります。
フェーズ2:ゲーム中(注文量の動き方を記録する)
各階層の発注量を、週ごとに記録してもらいましょう。この数字がデブリーフィングのすべてです。手元の記録用紙に書き込む形でも、ファシリテーターがまとめて表に集めても構いません。
観察したいのは、参加者が焦り始めるタイミングです。注文が届かない週が続くと、多くの人が追加発注を重ねます。やがて大量の在庫が一度に到着し、今度は発注を止めます。この振れ幅が、川上に行くほど大きくなっていきます。
参加者の表情も記録に値します。「なぜ届かないのか」といら立ち、川下の担当者を疑い始める場面が必ず出てきます。この感情は、デブリーフィングで扱う重要な材料です。見えない相手のせいにしたくなる心理こそ、このゲームが再現したかったものだからです。
フェーズ3:デブリーフィング(グラフを前に振り返る)
終了後、各階層の発注量の推移をグラフにして並べましょう。小売はわずかな山、メーカーは巨大な山。消費者需要は一度しか変わっていないのに、川上ほど激しく振れていることが見える化されます。このグラフを見た瞬間が、このゲームでいちばん学びが生まれる場面です。
「体験→原因→職場への接続」の順で問いを進めましょう。
- 体験を語る:「どの週がいちばん苦しかったですか?」
- 原因を考える:「この振れ幅をつくったのは、誰のどんな判断だったと思いますか?」
- 職場に接続する:「自部門の最適を追った結果、他部門に皺寄せが出た例はありませんか?」
ここで重要なのは、犯人を特定しないことです。参加者を入れ替えて同じことをしても、ほぼ同じ結果になります。個人の能力ではなく情報の流れ方が原因だと示せたとき、議論は組織の仕組みの話へ進みます。余裕があれば、需要情報を全階層に共有するルールで2回目を実施すると、違いがはっきり出ます。
ビールゲームが生む、3つの変化

変化1:小さな変動が、川上で大きく振れる
消費者の注文が少し増えただけなのに、メーカーの生産量は数倍に跳ね上がります。各階層が安全を見て上乗せし、その上乗せがさらに上乗せを呼ぶためです。
数字とグラフで突きつけられると、言い逃れができません。自分の一手がどこまで影響を広げたかを、全員が同じ資料を見ながら確認できます。
変化2:悪いのは人ではなく、情報の流れ方
ゲーム中、参加者は必ず他の階層を疑います。ところが振り返ってみると、全員が手元の情報で最善を尽くしていたことがわかります。
この気づきが、職場での責任追及のしかたを変えます。問題が起きたときに「誰のせいか」ではなく「どこで情報が途切れたか」を問う。この転換が、組織の改善を前に進めます。
変化3:自部門の正しさが、全体の損失になる
欠品を避けるために多めに発注する判断は、小売の立場では完全に正しいものです。それでも全体では損失が膨らみます。正しさが積み重なって悪い結果を生む構図を、数字で突きつけられます。
この体験をした参加者は、他部門への依頼のしかたが変わります。数字だけを渡すのではなく、背景や見通しを添えるようになります。情報を共有する意味が、理屈ではなく実感として残るからです。
こんな組織・シーンに向いている

ビールゲームが特に効果を発揮するのは、次のような場面です。
「部門間の連携がうまくいかない」「自部署の視点から抜け出せない」という組織に向いています。製造業や小売業はもちろん、在庫を扱わない業種でも、情報が段階を経て伝わる構造はどこにでもあります。営業と開発、本社と支店の関係にそのまま重ねられます。
管理職研修や経営幹部研修の題材としても定番です。実施には90〜150分と、他のワークより長めの時間が必要になります。そのぶん得られる気づきは大きいため、半日研修の中心に据える形が向いています。オンラインでも、共有スプレッドシートで注文票をやり取りすれば実施できます。
まとめ
ビールゲームは、それぞれが正しく判断しているのに全体が悪化していく状況を、数字で見せてくれるシミュレーションです。見えない相手を疑い、安全を見て上乗せし、振れ幅が広がっていく。その流れを体験すると、情報を共有することの意味が変わります。
部門間連携を扱う研修で、どのワークを使うか迷うこともあると思います。そういった場合は、様々な研修ゲームをオンラインで体験することができますので、以下のフォームよりお気軽にお問い合わせください。
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