船長の決断でチームの価値観と判断力を鍛える研修の進め方と効果
「船長の決断」を活用して、チームの価値観や判断力を鍛える研修の進め方と効果を解説します。ゲームを通じて意思決定や意見交換を体験し、チームで考え合意形成する力を高める実践ポイントを紹介します。

チームで決めたはずなのに、後から「あの選択は違うと感じた」という経験はありませんか?
会議では合意したように見えても、それぞれが大切にしている価値観は異なっています。誰かが強く主張したから従った、言い出せなかった、そもそも自分がどう考えているか気づいていなかった。こうしたすれ違いは、特に正解のない判断を迫られる場面で表れやすいものです。
そこで活用されているのが、船長の決断です。倫理的なジレンマを含むシナリオを通じて、チームの意思決定の背景にある価値観を浮かびあがらせる研修ゲームです。この記事では、そのルールと研修での活用方法を解説します。
船長の決断とは?
船長の決断とは「沈没しつつある船から限られた救命ボートで脱出する」というシナリオで、「誰を乗せるか?」をチームで議論する倫理的意思決定のゲームです。



舞台は沈みゆく船上です。救命ボートには10人しか乗れません。しかし助けを求めている登場人物はそれ以上います。妊婦、子連れの母親、けが人、高齢者、医師、船員など、それぞれに背景と事情が設定されています。チームは全員が合意できる「乗船者リスト」を話し合いで決めなければなりません。
このゲームに「正解」はありません。誰を選んでも、誰かを見捨てることになります。その前提のもとで、どう話し合い、どう決めるか。そのプロセスこそがゲームの本体です。シナリオカード1セットがあれば始められ、4〜8名のチームで60〜90分あれば十分です。複数チームの同時実施にも対応できます。
研修での活用方法

船長の決断を研修に取り入れるときは、「ゲーム前・中・後」の3フェーズで設計すると効果が最大になります。
フェーズ1:ゲーム前 ── シナリオへの没入と場の設定
冒頭でシナリオの世界観を丁寧に伝えましょう。「船は確実に沈む」「ボートは10人まで」という制約を明確にした上で、「どう話し合って決めるかも、このゲームの一部です」と伝えます。ルールを説明するのではなく、状況に没入してもらうことが先決です。
「正解はない」という事実も最初から伝えてください。これが抜けると、参加者が「正しい答えを探す」モードになり、議論の質が変わってしまいます。「どんな選択にも理由がある。今日はその理由を大切にしてください」という一言が、参加者の向き合い方を深めます。
また、このゲームは価値観が直接ぶつかる場面が生まれやすいことを念頭に置いてください。「議論が白熱するのは当然」という雰囲気をあらかじめ作っておくことで、感情的になった場面も学びの材料として受け取れるようになります。個人ワークで先に自分の考えを整理してからチーム議論に入ると、各自の価値観がより鮮明に現れます。
フェーズ2:ゲーム中 ── 価値観のぶつかりを観察する
このゲームの観察で注目したいのは、「何を根拠に誰を選ぼうとしているか」です。功利主義的に考える人(より多くの命を救う可能性がある人を選ぶ)、弱者を優先する人(妊婦や子供を先に守る)、役割で考える人(医師や船員を残す)。同じチームの中に、まったく異なる判断の軸が存在します。
特に見ておきたい場面があります。意見が対立したとき、誰がどう動いたか。声の大きさや熱量で判断が動いた場面はどこか。逆に、強い意見を持っていたのに最後まで言えなかった人はいなかったか。そして、妥協案が出たときに誰がそれを受け入れ、誰が抵抗したかです。
複数チームで実施している場合は、チームによって選んだメンバーの顔ぶれが異なることが多くあります。その違いをメモしておくと、全体共有の場で「なぜチームによって結果が変わるのか」という問いが生まれ、価値観の多様性を実感する場になります。
フェーズ3:デブリーフィング ── 「なぜ」を掘り下げる
まず各チームの結果(乗船者リスト)を発表し合いましょう。チームによって選択が異なることを確認するだけで、「同じ状況でもこんなに違う」という驚きが生まれます。ここでの問いは「どちらが正しいか」ではなく、「なぜそう決めたか」です。
「選択の理由→価値観への気づき→職場への接続」の順で問いかけを進めましょう。
- 選択の理由を語る:「○○を選んだのはなぜですか?その判断の背景にあったのは何ですか?」
- 価値観を言葉にする:「今日の自分の選択から、自分が大切にしていることが見えましたか?」
- 職場に接続する:「チームで難しい判断をするとき、今日と似たようなことが起きていませんか?」
特に「自分が強く主張した場面」と「相手に合わせた場面」を振り返ることで、普段の意思決定スタイルへの気づきが生まれます。感情的になった場面があれば、それも「それだけ大切にしている価値観があった」という証拠として肯定的に扱いましょう。ワーク全体の3割以上を振り返りに使うことで、対話が日常の判断へとつながりやすくなります。
選択の裏側に潜む、3つの価値観の気づき

気づき1:「正しさ」の基準は、人によってまったく異なる
妊婦を優先すべきだと感じる人もいれば、医師を残すべきだと考える人もいます。どちらも「正しい」と思っているのに、結論が真逆になる。この体験が、「価値観に正解はない」という事実をリアルに届けます。
日常業務では、こうした価値観の違いが表面に出にくいまま意思決定が進むことがあります。船長の決断は、その違いを安全な場で見える化します。
気づき2:感情が入ると、論理より「共感」が判断を動かす
議論が進むにつれ、「子供がいるから」「けがをしているのにかわいそう」という感情的な訴えが、論理的な根拠よりも強く判断に影響する場面が現れます。これは日常の会議でも同じです。
「なぜあの意見が通ったのか」を振り返ると、「熱量が高かったから」「声が大きかったから」という理由が浮かびあがることがあります。意思決定の質を高めるためには、こうした力学を自覚することが第一歩です。
気づき3:「言えなかった」意見こそ、本音だった
ゲーム後に「本当はこう思っていたけど言えなかった」という声が必ず出てきます。合意したように見えた選択の裏に、納得していないメンバーがいた。この気づきは、チームの意思決定の質を問い直すきっかけになります。
「全員が納得できる決め方」を改めて考えるきっかけとして、このゲームは機能します。
こんな組織・シーンに向いている

船長の決断が特に効果を発揮するのは、次のような場面です。
「チームで難しい判断をする機会が多い」「多様なメンバーが関わる意思決定で意見がまとまりにくい」という組織に向いています。正解のない問いに向き合うプロセスそのものが、チームの合意形成の鍛錬になるからです。
管理職・リーダー研修では、「自分がどんな価値観で判断しているか」を自覚する機会になります。また、ダイバーシティ&インクルージョン研修の導入ワークとしても活用されています。価値観の違いを「正しい・正しくない」ではなく「違いとして尊重する」姿勢を体験から育てられる点が強みです。
まとめ
船長の決断は、正解がないからこそ参加者の本音が出るゲームです。誰を選ぶかよりも、なぜそう選んだかを振り返ることで、チームの価値観の違いと意思決定のクセが鮮明になります。議論が白熱した場面ほど、深い気づきが待っています。
様々な研修ゲームをオンラインで体験することができます。以下のフォームよりお気軽にお問い合わせください。
関連記事

KPTで振り返りを次の行動につなげる研修の進め方と効果
KPTは、Keep・Problem・Tryの3つの枠で業務を振り返るフレームワークです。反省会で終わらせず、次の具体的な行動まで決めるための進め方と、定着させるコツを解説します。

「強み発見」ワークで自分の持ち味に気づく研修の進め方と効果
「強み発見」ワークは、互いの強みを書き出し合い、過去の成功体験から自分の強みを掘り出すワークです。自分では当たり前すぎて気づけない持ち味を、根拠とともに見つける進め方を解説します。

メイク10でチームの思考力と連携を鍛える研修の進め方と効果
メイク10は、4つの数字を四則演算で組み合わせて「10」をつくる速さをチームで競うゲームです。試行錯誤を分担しながら答えに近づく過程で、思考力と連携を鍛える進め方を解説します。

ジグソー法で研修の学びを現場で使える知識に変える進め方
ジグソー法は、参加者がそれぞれ別の範囲を担当して専門家となり、互いに教え合って全体を完成させる学習法です。教える前提が理解を深める仕組みと進め方を解説します。
