私のトリセツで「察してほしい」を言葉にする研修の進め方と効果
私のトリセツは、自分の特性や好き嫌い、コミュニケーションの癖を書き出して共有するワークです。察し合いに頼らず働くための項目設計と、研修での進め方を解説します。

「そこは察してほしかった」と思ったこと、ありませんか?
急ぎの依頼をチャットで送ったのに、相手は丸1日見ていなかった。集中したい時間に話しかけられて、つい素っ気ない返事をしてしまった。どちらも悪気はありません。ただ、お互いの前提が違うだけです。その違いは、口に出さないかぎり一生わかりません。
そこで活用されているのが、私のトリセツです。自分の特性や好み、コミュニケーションの癖を書き出して共有する。取扱説明書という形にすることで、ふだんは言いにくいことが伝えられるようになります。この記事では、その進め方と研修での活用方法を解説します。
私のトリセツとは?
自分の特性・好き嫌い・コミュニケーションのスタイルを項目ごとに書き出し、チームで共有するワークです。




書くのは、家電の取扱説明書のような内容です。「得意なこと」「苦手なこと」「依頼されるときの希望」「集中しているときのサイン」「機嫌が悪そうに見えるときの実際」「調子を取り戻す方法」。こうした項目を、1枚のシートに自分の言葉で埋めていきます。
ポイントは、性格診断ではないという点です。自分がどんなタイプかを分類するのではなく、一緒に働く人に向けた実用的な説明書をつくります。だから「朝はエンジンがかかるまで30分かかります」「チャットより口頭のほうが早く伝わります」といった、具体的で行動につながる表現が向いています。
用意するのはシートとペンだけ。4名から実施でき、40〜70分あれば記入と共有、振り返りまで行えます。
研修での活用方法

私のトリセツを研修に取り入れるときは、「ワーク前・中・後」の3フェーズで設計すると効果が最大になります。
フェーズ1:ワーク前(項目を決め、開示の範囲を伝える)
項目設計が、このワークの成否を分けます。自由記述だけにすると手が止まるため、6〜8個の項目をあらかじめ用意しておきましょう。仕事に直結するもの(依頼のされ方、連絡手段の好み、集中したい時間帯)を中心に、人柄が出るもの(機嫌が悪そうに見えるときの実際、調子の戻し方)を2〜3個混ぜるとバランスが取れます。
同時に、書かなくてよい自由も必ず伝えます。「書きたくない項目は空欄で構いません」「プライベートに踏み込む必要はありません」。この一言があるかないかで、場の安心感がまったく違います。自己開示を強制した時点で、このワークは機能しなくなります。
ファシリテーターや管理職が先に自分のトリセツを見せるのも効果的です。上の立場の人が「実は朝が苦手で」と開示すると、参加者の基準が一気に下がります。記入時間は10〜15分、1人あたりの共有は2〜3分を目安にしましょう。人数が多い場合は4〜6名のグループに分け、同時に共有を進めると時間内に収まります。
フェーズ2:ワーク中(書き方と共有のしかたを見る)
記入中に見ておきたいのは、手が止まる項目です。「苦手なこと」で止まる人が多いようなら、「できないことではなく、やり方を工夫したいこと、という意味です」と補足しましょう。言い換えひとつで、書けるようになります。
共有の場面では、抽象的な表現が出てきたら掘り下げます。「コミュニケーションは大事にしています」では、聞いている側は何も行動を変えられません。「報告は結論から言ってもらえると助かります」まで具体化できると、翌日から使える情報になります。
聞き手の反応も観察ポイントです。「それ、わかる」という声が出た項目と、「意外だった」という反応が出た項目では、意味がまったく違います。とくに後者は、これまですれ違っていた可能性が高い部分です。メモしておき、振り返りで拾いましょう。
フェーズ3:デブリーフィング(明日の関わり方に落とす)
共有が終わったら、聞いた内容を行動に変える時間をとります。「今日聞いた中で、明日から自分の関わり方を変えられそうなことはありますか」。この問いを飛ばすと、ただの発表会で終わってしまいます。
「発見→行動→運用」の順で問いを進めましょう。
- 発見を語る:「意外だったトリセツはありましたか?」
- 行動に変える:「誰への接し方を、どう変えてみますか?」
- 運用を決める:「このシートを、普段どこに置いておきますか?」
トリセツは変わるものだと伝えておくことも大切です。役割が変われば苦手なことも変わります。半年に一度更新する、新しいメンバーが入ったら全員で共有し直すといった運用まで決められると、ワークが仕組みとして定着します。
私のトリセツが生む、3つの変化

変化1:「察してほしい」が、言葉になる
希望を伝えられないまま、わかってもらえないと感じている人は少なくありません。トリセツという形式は、その希望に書く場所を与えます。わがままではなく、働きやすさの共有として伝えられるようになります。
書いてみてはじめて、自分が何にストレスを感じていたかに気づく人もいます。相手に伝えるための作業が、自分の状態を整理する時間にもなります。
変化2:相手への接し方が、具体的に変わる
「あの人は丁寧に話しかけたほうがいい」といった曖昧な配慮が、「午前中は集中時間なので、急ぎでなければ午後に声をかける」という具体的な行動に変わります。
配慮の空振りが減ることも大きな効果です。よかれと思ってやっていたことが相手にとって不要だった、という場面は意外と多いものです。トリセツがあれば、そのズレを先に潰せます。
変化3:違いがあることが、前提になる
全員のトリセツが並ぶと、同じ職場でも前提がこれほど違うのかとわかります。チャット派と電話派、締め切り前倒し派とぎりぎり集中派。どちらが正しいという話ではありません。
違いが見える化されると、「なぜそうしないのか」という苛立ちが「そういう人なんだ」という理解に変わります。この転換が、日々の摩擦を静かに減らしていきます。
こんな組織・シーンに向いている

私のトリセツが特に効果を発揮するのは、次のような場面です。
「メンバー同士の小さなすれ違いが積み重なっている」「新しいメンバーが加わったが、距離感がつかめない」というチームに向いています。シート1枚で実施できるため、チームビルディング研修の一部としても、1on1の前段としても組み込めます。
新任管理職が着任したタイミングで、本人とメンバーが互いに書き合うのも効果的です。リモート中心のチームとも相性がよく、オンラインでは共有ドキュメントに各自が記入し、画面共有しながら順番に話す形で同じように実施できます。書いたものがそのまま残るため、あとから見返せる利点もあります。
まとめ
私のトリセツは、察し合いに頼っていた部分を、言葉にして共有するワークです。自分の癖を書き出し、相手の前提を知り、関わり方を具体的に変える。この積み重ねが、日々の小さなすれ違いを減らしていきます。
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